叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
新しい治療が始まったこともあるけど、体の状態も良くないこともあって、あまり不要に病室を出ないように言われている。
でも、それではお腹も空かないし……ベッドの上で、数時間後にはやってくる薬のことを考えてしまっては、気持ちも沈むばかりなので、上着を羽織って部屋を出てみた。
すっかり冬が訪れて、再び入院してから半年が過ぎようとしている。
大きな病院だけあって、病室の外にいる人たちのことは、あまりよく分からない。
一日数回、トイレや洗面台に行く時にすれ違う人たちの顔ぶれは、最初に比べてガラリと変わっていることは間違いない。
患者さんだけでなくて、看護師さんも知らない人がいたり、今までいた人がいつのまにかいなくなったり……。
変わらないのは先生たちだけ。
ふと頭に浮かんだ顔……。
背が高くて色黒の目鼻立ちの整った顔で、一言口を開けば注意ばかりしてくる……。
口うるさくて正直嫌だと思うことが多々あるけど……。
学校で会った藤堂先生は、病院で会うのと違って一人の大人の男だった。
私の話をじっくり聞いてくれて、的確なアドバイスまでくれて。
病院での姿とはまるで違ったことに、今思えばあの時から私の脳裏にチラチラと浮かぶのは、梶田先生ではなく藤堂先生なのだと気づいたのは、
部屋を出てフラフラ歩いていると、小児科のリハビリステーション前に差し掛かったところで、車椅子を押した藤堂先生がそこに乗っている女の子に話しかけているところが目に入った時だった。
女の子は私と同じくらいなのか、にこやかに笑うその表情から、まるで先生に恋してるように見えた。
いや、それはもしかして私自身のようにも見えた……。
廊下からジッと見ていると、ふいにらこちらを見た藤堂先生が再びこちらをしっかり向いて目を見開いた。
ドキン……
と胸の高鳴りに気づいた。
それ以上は恥ずかしくなって立っていられなくなって…最後にはその場を足早に通り過ぎ部屋に戻った。