叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
美咲が次に目を覚ましたのは1時間後。夕食が既に運ばれていた。
「ん?あれ……。」
私、眠ってた?確か廊下で梶田先生に会って…気付いたらここまできてて。
記憶がない…。
ってことは気を失ってた……?
ずっと憧れていて好きだったけど、あんなに見つめられるとは。
いや見られただけなんだけど。
はぁ、思い出すだけでもドキドキする。しかもパジャマ姿でベッドに寝てたし、髪は洗ってないしボサボサだし。あんな綺麗な瞳で見つめられたら…、気を失って当然だよ。
なんてことを頭の中で悶々と思い出しながら後悔するけど、すぐに自己解決。梶田先生のことになるといろんなことを思い巡らせるのだけど、散々巡らせた後は自分だけで満足して終わり。これが私の良いところでもある。
とりあえず今は、目の前にあるこのご飯を何とかしなくちゃ…。
ただでさえまずい病院食。胃腸の弱い私はドロドロとした食事。食べたくないけどお腹だけは空く。
こういうときは鼻をつまんで目を瞑って食べる。そうすれば匂いも見た目も気にならない。まぁ舌触りは何ともならないけど。
ブツブツ言いながらスプーンを口に運ぶ。
『お、目が覚めて食欲も出てきたなっ!』
開いていた大部屋の扉から知らない間に入ってきたのは、藤堂先生。
『食べながら聞いて。』
椅子に腰掛ける藤堂先生。深刻な話?
『来週火曜日から俺が出張なんだけど、その間梶田先生にお願いするから。』
「ゲホッ!!!え?え?え?」
な、なに、言ってる?
『あ、そんなに俺が良かった?ショックでむせてる?』
「ち、違います。」
その逆です!!!か、梶田先生が!?私を診察するってこと?
思ってもみなかった……。
それでさっきこっちの病棟にいたのかな?
『親御さんには月曜にお会いしたときにそのことも伝えるけど、一週間で戻ってくるからな』
あ、そうだった。検査結果のこと忘れてた。
でももうそれはどうでもいい。どうせ良くはならないのだから。
それより梶田先生が主治医してくれるなんて……。
途端に再び胸のドキドキが止まらない。あぁー!緊張する。考えただけでも緊張するっ!
朝から歯をちゃんと磨いて、顔も洗ってから回診受けなくちゃっ。
『……おーい。
おーい。』
ん?
我に帰ると藤堂先生に呼ばれてる。
『あのなぁ、話をしてるんだから、ちゃんとこっちを見なさい。』
グイッ
と顔を手で挟まれて向きを変えられる。藤堂先生の目が私の目から至近距離にある。
ち、近い……。
これが梶田先生なら大喜びなところだけど、ただ藤堂先生にやられると怖さ半分、説教されるのかと面倒くさいの半分。胸のドキドキは全くない。
『なんだよ、その顔。俺がいない間にあんまり部屋から出るなよ。さっきみたいに倒れるぞ。』
「えっ?倒れた?」
梶田先生の目の前で緊張して気を失ったんじゃなくて?
『血圧が不安定だからか、検査結果も良好とは言えなかったからなのか、はっきりしないけど。あまり部屋から出て悪化させることのないようにな。』
気を失ってたんだと思ってた。
意表をつかれてボーとしていると、藤堂先生は気づくと部屋を後にしていた。
やっぱり知らないところで私の体は悪くなってるんだね…。