叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい

『美咲ちゃ〜ん。お昼だよ〜。』




妙な甘え声を出しながらやってきたのは、藤堂先生……。




これは朝の続きだな。
しつこいな……。






『はい、食べるよ。』





ん?もしかして私のことを試してる?
もし私が食べなかったら、「こういう食事は食べたくなかった」と判断されて、前にファミレスで固形物を食べた疑惑の嫌疑が濃厚になるって思われる!?





実際にそうなんだけど……。





ここは『食べる!』を選ばないと、疑われ続ける。






「もう、来なくてもちゃんと食べますよ!」





まったく食欲はないけど、口に入れてみる。






うん、まずい!







何となく味は付いてるけど、何食べてるかわからない。




チラッと藤堂先生の顔色を伺う。






あんまり気にしてない感じがする。
こちらの考え過ぎかな……。





それでも満腹中枢いっぱいの胃の中に流し込む。
今日のメニューは見ていないけど、




じゃがいも、人参、玉ねぎ、
少しゴロッと感のあるひき肉。
しょうゆ、みりんなのか砂糖なのか…。




たぶん肉じゃが!






の味……。




ほうれん草のお浸しもある。




もうここまでくると、見た目ではなくて味でメニューが何なのか分かってしまう。ある意味すごいことだと思う。





『お?食べれるんじゃん!』






覗き込みながら、驚きの表情の藤堂先生。
当然でしょ!という顔で返してみる。





『明日、腸の検査するからな。』





へ!?






明日!?






突然言い出した藤堂先生を二度見してしまった。
さっき固形物を口にして、明日検査されたら、一体どうなる?






『夜ご飯のあとは水やお茶はいいけど、明日まで薬で腸の中のものを全部出してもらうからな。』





あ、それなら大丈夫だ。
っていうか、





「今食事中なんですけど…。」






『悪い悪い、もう終わっただろ?』





確かに、飲み込みましたが。
本当にそういうところはデリカシーのない藤堂先生。
梶田先生を見習って欲しい限りです。






『そういえばさ、学校の方はあれからどう?』





そうだ、藤堂先生には大変お世話になりました。だったんだ!





「はい、先生に話した翌日から、クラスのみんなから声を掛けてもらえるようになって、友達もできました!」






『それは良かった。』





「相談に乗っていただきありがとうございました。でも、なんでみんな急に私に声を掛けてくれるようになったのか……。」






『さぁなっ。まぁ、良かったじゃん。』





「はい。あ、でも、このこと父には言わないでくださいよ!」





『なんで?』





それは……、





「余計な心配掛けたくないし……。」





『わかった。
まぁ、学校のことだけじゃなくて、ほかのこともちゃんと相談しろよ。』







え?





『体のこと……。
俺はそっちが本業だからなっ。』





あ……そうですね。
私があまりにも病気のことや治療方針について話すことがないもんね。





『前の先生の時もそうなのか知らないけど、もう少し自分のことに関心を持てよな。』





そうは言われても。治るものでもないし。





「それはもう、先生たちスペシャリストに任せてあるから大丈夫です!」





『なんだそれっ。』






と言いながらも笑っている藤堂先生。
いつもこうならいいんだけどなぁ。






とりあえずの疑惑は少し晴れていったのか、私が完食したことを満足して部屋を後にした。








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