叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
ガラッ
田中先生がまだ部屋にいるところにやってきたのは……、
『おいおい……やったなぁ〜。』
半ば怒りながら、半ば冗談混じり?で入ってきた藤堂先生。
噂をしていれば……。
ずんずんと進んで私の目の前にやってくると、
「ぃたっ!」
唯一まともに露出している額に、ピンっ!と指で弾かれた。
『元気で戻ってきてたら、これだけじゃ済まさなかったぞ。』
あ……結構怒ってる。
低い声で、怖い顔で……。
『なぜこうなったか、詳しく聞こうじゃないか。』
う……。来て早々、なぜこうなったか尋問されてる……。
『なになに?』
喋る前から追及される。
今じゃなきゃダメなのかと思ってしまうけど、そんなに体は怠くないから、たぶんさっきの熱もなかっただろうし、きっと先生から見ても体調はいいのだろう……。
自分の体なのにな……。私よりも周りが知ってるなんて。
チラッと藤堂先生を見ると、ギロッとした目でこちらを見ている。
田中先生は部屋から出て行く様子は全くない。
だって……、二人は離れた位置だけど、私からはとても近い位置にある丸椅子に座ってるんだもん。
「ぇっと……。その……、あの……。
私が全てはいけなかったので……。
ごめんなさい。」
説明することもうまくできず、とにかく謝ってみた。
『いや、ごめんなさいより、理由を聞かせて。』
ドS……。もう知ってるくせに。
「知ってるんだから、いいでしょ?」
ついイラッとしてしまった。
この言葉一つで、藤堂先生のスイッチを…、いや穏やかにしていた田中先生にまでも……火種が飛んだ。
『何を開き直ってる?俺は、美咲の口から何がどうだったのか聞いてるんだ。
こんなことになって、反省してないようなら、もっとしっかり話し合わないとな。』
ぎゃっ!?
『美咲ちゃん、君は主治医である藤堂先生に、今まで隠してきたことを全て自分の口から説明すべきではないのかな?』
さらに追い討ちをかける田中先生……。
「………………。」
責め立てられ、さらに喋りにくい……。
「全部、私がいけなかったの!
だからぁ、ごめんなさい!」
落ち着いて説明すべきだろうけど、私も感情が止められない!
『入院する前のことは?』
「言われてた通りの約束は破りました!普通の食べ物を食べました!」
普通の食べ物ったって、大したものじゃないよっ!
『入院中は?』
「食べたっ!」
『それがどんな危険なことかわかってる?』
「知らない!食べたいから食べたの!食べたのは私だし、それで何かなったのは私の体だから!
先生たちには関係ないでしょ?」
『関係ある!
治すために病院に通ってるのに、それじゃ何も良くならない。いつまでも固形物が食べられないだろ?』
藤堂先生は充分落ち着いて、私に合わせてきつく言ってる。けど、私はこの気持ちを素直に言えないし、イライラした気持ちは出ちゃうし……。
もうどうにでもなれ!
「私はこれ以上良くなるとは思ってない!良くなると言われて、たくさん制限されてたくさん治療してきたけど、もうどうでもいい!
だから、退院する!二度と治療に来ないから!」
………………チーン。
部屋に流れる微妙な空気。次第に息苦しくなってきた。
『美咲ちゃん?本心じゃないよね?』
田中先生が聞いてくる。
「…………本当だもん。」
小さな声で答えることしかできない……、だんだんと息苦しくなってきた。
でも……、この状態で過呼吸になんてなりたくない。
「だから……出てって。」
そう声を絞り出すのに必死だった。
『分かった。美咲の気持ちは充分分かった。』
げっ、来た時よりさらに怒ってる……。種火を爆発させたかも……。
田中先生と藤堂先生は立ち上がると、部屋を後にした……。