叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい

「ゲホッ!」





2人が出て行った病室で、イライラが収まらない美咲は、ベッドの上で、マスクを外して上体を起こして座っていた。





まだマスクを外すのは早いって、神山先生が言ってたんだった。




再びマスクをつけようとすると、手からマスクが滑り、ベッドから落ちてしまった。






「もう!」






さっきの自分の姿を思い出すと、さらにイライラしてくる。そのイライラと同時に悔しさも混じる。





本当は……自分の体も心も思うようにならないことが辛い。本当は普通の生活に送りたい……。
入院生活にも疲れた……。





「はぁはぁはぁはぁはぁ。」






あ……始まった。
こうやって気持ちが焦るとすぐに出てくる……。






「はぁはぁはぁはぁはぁ……。」






お、落ち着いて……。






「ふぅ〜〜〜」






長く息を吐き続ける。





「はぁはぁはぁはぁ……ふぅ〜。」






頑張れ、私!






「ふぅ〜〜。」






落ち着いてきた……。ゆっくり深呼吸。






「はぁ……。」





疲れた。






ガラッ





過呼吸が落ち着くとすぐ、再び扉が開く。






また入ってきたのは藤堂先生…。





なんっていう最悪なタイミング。
マスクは外して、体を起こして……。過呼吸してた直後。





『え?何やってんの?』






部屋に入って早々怒られる。新しいマスクをそばにあるカートから取り出して付け替える。





私の頭にマスクをはめようとする……。





「いぃ!自分でやれる」





過呼吸は治っても、私のイライラは収まらない。





マスクを強引に手に持って、自分の頭に付ける。






ベッドの上の布団がくしゃくしゃになっていることに気づいたのか、藤堂先生が聴診器を取り出す。





『何かあったのか?』





「何もないから!」




過呼吸が出たことを気づかれないように、ゆっくり呼吸をする。





『聴診させて。』





気づかれたのか…?





「やだ!さっき言ったでしょ?」





『何を!?』




「もう治療は受けないし、退院するから!」





どうかバレないように……。






『だめ、そんな体では退院させれない。それに、未成年の君は、自分の意思では退院できないんだ。』






わかってるよ…そのくらい。





『ジッとして。』





服を上げない私に、胸元から聴診器を入れようとする藤堂先生。






「やめてっ!」





藤堂先生の持っていた聴診器を首から外して奪い取る。






自分の行動に自分でもよく分からず、驚いた。






『やめなさい。』





静かに、ワントーン落ちた声で叱られる。




「無理矢理やったのが悪いんでしょ!?」




と言いながら手にしてた聴診器をベッドの上に置いて、マスクを口にしたまま藤堂先生に背を向けて横になる。






シーン……







静かになる部屋で、





カチャ






聴診器の動く音が背中から聞こえる。






片付けた……と思っていると、





ピタッ





背中に聴診器が当てられた。





「やめてよっ!」






さらに布団を被ってみたけど、遅かった……。






『何があったのか、自分でいいなさい。』





ほら来た……。分かってるくせに。






「………………。」





『美咲!?』





声が大きくなる。






「関係ないでしょ!」






何があったか、聞かなくても分かるのに、何で言う必要があるの?私より私の体のことを知ってるでしょ!?






『マスクは明日まで付けてなさい。』






それだけ言うと、藤堂先生は部屋を後にした。
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