叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
翌日になると、昨日の体調不良は嘘のように体が軽くなってきていた。
『これなら一般病棟に戻れるね。』
朝の回診でやってきた神山先生。
一般病棟に戻りたくない……。
またつまらない毎日が待ってるんだもん。
『ん?あんまり嬉しそうじゃないね。』
ベッド脇の椅子に座って、私の顔を覗き込む。
近いですって……。
なぜか患者との距離が近い。
嬉しいけど…どんな風に答えなくちゃいけないのか分からない。
『昨日、過呼吸が出たみたいだけど、何か悩んでる?』
直球で聞いてくる神山先生。
先生に話せたら、さぞかし楽になれるんだろうけど…。
「何も……。」
『そう?そんなことはないって顔に書いてある。』
そう言われ、瞬時に顔を触る。
「え?え?」
『アハハ、そういう顔してるってこと。
何を思ってるの?』
なんだ……。
「一般病棟に行っても、しばらくは退院できそうにないし、これからも同じ生活が始まると思うと、退屈……。」
まぁ、嘘ではないよね。
『それだけ?』
神山先生には、私の思ってることが分かるのか、図星……。
「まぁ、そんなところ。」
適当にごまかす……。
『じゃあ、話したくなったら、今度は遊びにおいでよ。ずっと忙しい訳ではないし。』
「えー!一般病棟より恐ろしいことする先生のところにー!?」
って、本当はものすごく嬉しい。また会えると、しかも先生から言ってくれた。
『怖いって、何が?』
「処置してる時の先生たちの顔、なんとなく覚えてるけど、怖かった……。それにいつもよりたくさん色んなもの付けられて……、嫌。」
『えっ!意識があったんだね。
まぁ、一般病棟より重症ならうちだから、たくさん器具を付けるのはしょうがないね。
こっちが暇な時は、一般病棟に顔出しに行くよ。
っていうか、今までもこっちが手の空いてる時は、一般病棟に手伝いに行ってたけど、僕は藤堂先生じゃなくて、梶田先生の方に行ってたんだけどね。』
へぇ、知らなかった。
『藤堂先生もいい人だから、ちゃんと話すんだよ。』
「えー!?そうかなぁ。いい人ではあるけど……。なんかなぁ。
梶田先生が良かった……。」
最後は聞こえないくらい小さい声で。
『梶田先生も藤堂先生もどちらも素敵な先生だから。
藤堂先生は小さい子供でも大きな子供でも、患者さん一人ひとりと向き合っていて、とても熱意のある先生だよね。
思ってること、ちゃんと話せば、受け止めてくれるよ。』
「 うん、まぁそのうち、気が向いたら。」
どんなにいい先生でも、言えることと言えないことがある……。
気持ちを言ったところで許してもらえるものでもないし。
『その顔その顔っ!めっちゃ悩んでる顔だからっ。』
笑いながら話す神山先生に、こちらまで顔が緩む。
『そうそう、笑って笑って。』
「あーあ、これで病気なんてしてなければ、いい人生なのになぁ。」
何となく言った言葉だったけど、先生からの返事は少し間が空いてからだった。
『それじゃ、昼からには一般病棟だから、それまでここを楽しんでねっ。』
楽しむって。最後まで神山先生のペースだった。
このまま退院できそうなのに、と思いまながら、昼には一般病棟に戻ることになった。