叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
『おかえり、美咲ちゃんっ。』
車椅子に座ったまま、ICUから一般病棟に戻って来ると、ナースステーション前で待っていたのは看護師の山田さん。
『久しぶりね、どうしてた?』
「山田さんこそっ!どうしてたんですか!?」
『私はね、海外に勉強に行かせてもらってたの。』
「えっ!?海外!?」
すごい!私のこのつまらない人生の数ヶ月の間にも、山田さんは海外で勉強してたなんて!
車椅子を押してくれる山田さんの顔を見上げる。
『目がキラッキラしてるから(笑)
アメリカの看護を学んできたのよ。』
「うわぁ!本当にすごいなぁ。
私のこの数ヶ月なんて、ホント刺激のないものだったのに……。」
『そうなのー?そしたら、また色々聞かせてちょうだい。』
「山田さんも、アメリカの話してよっ!」
私の人生でアメリカなんて、言葉すら聞くこともない国。
いつか行ってみたいなぁ。
まぁ無理だけど…。
『はい、着いたよ。』
顔を上げると慣れたいつもの病室が待っていた。
数日空けていたけど、私のベッドはそのまま。
変わっていることは、他のベッドに一人入っていたということだけ。
今までも同室になった子はたくさんいたけど、あまり深く関わらないようにしてきた。だって退院していく子ばかりだし、それっきりになってしまうから。
私だけ思い出が残っちゃうし……。
だから今回も、誰かいるなーとしか思っていない。
『同室の子、気になる?』
私がマイ ベッドに座ると、山田さんが小声で聞いてきた。
「ううん……、あんまり。」
『そんな顔しなくてもいいのに。もっと笑って笑って!』
と顔をムチャクチャにされて、その顔を見て笑った山田さんの顔は面白くて、私も次第に笑えてきた。
「アハハ!アハハアハハ!」
笑い過ぎて、息を吸い過ぎて、
「ハッハッハッハッ…はぁはぁはぁ。」
呼吸がっ…!?
『大丈夫、大丈夫。』
そういうと私に簡易的な紙袋を広げて口に当ててくれた。
落ち着きを戻した私は、改めて山田さんのすごさに気づいた。
「紙袋を常に持ってるなんて。」
『まぁ私たちは色々と準備しておかないとね。』
そう言って、提げていた肩掛けポーチの中を見せてくれた。
すごいんだなぁ、先生は聴診器しか持ってないのに。
『過呼吸はよくあるの?』
「うん…最近は頻繁に出てくる。」
『そっかぁ。どんな時に出るの?』
「うーん、辛いこととか心配なこととか考えると出るかなぁ。」
『最近はそういうことを考えることが増えたんだね。』
「うーん、そういうことなのかなぁ。」
『美咲ちゃんも大人になったって訳だね。』
そう言われると、自分が認められたようで嬉しかった。
先生たちには素直になれないけど、山田さんの前では何でも答えてしまう…。
「ねぇ、山田さん?」
『何?』
「私の話したこと、先生に言わないでね。」
『ん?どうして?』
「だって、山田さんだから話せるんだもん。」
『ふーん、分かったけど、体調のことはちゃんと言うわよ。』
「えっ!?」
『それは看護師として当然っ!』
「さっきの過呼吸のことも?」
『もちろんっ!』
はぁ……。
山田さんも所詮は病院の看護師…。
友達だったら良かったのにな…。
『ん?何か今私のことを悪く思った!?』
「いえいえ!」
山田さんと話してみて、気持ちは少し軽くなっていた。
ここに戻ってきて、少しは良かったと思えた。