叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
『おかえり』
山田さんがナースステーションに戻って少しすると、今度は主治医のお出まし。
おかえりって、昨日も会ってるのに……。
「……ただいま。」
『何、不貞腐れてるんだよ。
聴診するから横になって。』
「え!?回診の時間じゃない!」
『はぁ?
それでは美咲さん、さっきは何が起きたのかな?
山田さんからちゃんと聞いてます。』
えっ!?山田さん……さっそく言ったなぁ……。
「何もありません!聴診はさせませんっ!」
『ダメだっ!
そういう訳には行かないっ!』
「やだっ!」
『ダメだっ!』
「やだっ!」
とどちらも引かずに自己主張していると、
『あ、あの……。』
とカーテンの外から声がする。
『ん?』
藤堂先生がカーテンを開くと、そこにいたのは同室の女の子。
『えっと……あの、さっきから喧嘩してるみたいだけど、どうしたんですか?』
女の子はとても落ち着いていて、なおかつ色白で今にも泣き出しそうな顔。
「べ、べつに喧嘩なんかしてないけど。」
『ごめん、ごめん。うるさかったな。』
『あ、そういう訳では…ないんですけど。』
オドオドした態度で、何が言いたいのかよく分からないけど、納得したのかどうなのか、不安そうな顔で自分のベッドに戻って行く。
そしてカーテンを再び閉めた藤堂先生は、私の布団を剥ぎ取り、
『任意でダメなら強制するぞ。』
そう脅してきた。
「できるものなら」
そう言いかけたが早いか、私は藤堂先生に両手を抑えられ、気づくと胸元から聴診器を入れられていた。
「ぁあっ!やめてって!」
でかい声で叫ぶ。
『静かにっ!』
『あー!!!!!!!』
今度は聴診器に向かって叫んだ。
「おいっ!なんてことするんだ。」
聴診器を外した藤堂先生が怒る。
突然強制的にやってきた藤堂先生がいけないんだよ!
と顔に出して睨む。
しかし、冗談が効かないという真顔で睨み返され、それ以上抵抗すると爆発されると察して、ジッと大人しくする。
はぁ……自分の意見も通じないなんて。
やっぱり一般病棟に来るんじゃなかったと改めて思った。