恋を忘れたバレンタイン
 三週間ぶりに日本へと戻る。

 オフィスに入れば真っ先に見たかった彼女の姿を遮るように、どこから嗅ぎつけたのか、女子社員達に囲まれてしまった。
 始業の合図が鳴り彼女達が去ると、緊張のあまり彼女へ目を向ける事が出来なくなってしまった。

 気持ちを落ち着け、さりげなく彼女へ視線を向ける。

 当然、彼女は俺に目を向ける事も無く、淡々と仕事を熟していた。
 この三週間の俺の気持など気付く事も無いのは分かっているが、何も動じない彼女の姿に思わず深いため息が漏れた。彼女にとって俺の存在など、わずか数週間で忘れてしまうものなのだ。その証拠に、彼女は俺の帰国にも気付いていない。


 それから数日、気付かれないよう彼女の姿をチラリと見る。

 あんなに苦労して得たのに、海外授業部資格取得の話すらする事が出来ない。
 資格を取って偉そうに踏ん反り返っても、彼女は凄いわねとしか言わないだろう……

 自分でも分かっている、俺は資格を取得したかった訳ではない、彼女の気持が欲しいのだ……
 でもそれが、どれだけ難しい事なのか今更ながらに分かる。


『重くなる……』その言葉が引っかかり、俺は彼女に挨拶すら出来ずにいた。
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