恋を忘れたバレンタイン

　かなり眠っていた気がする。


　「主任、起きられますか？」

　頭の上の優しい声に、うっすらと目を開ける。

　彼に支えられ体を起された。


「何か、食べられそうですか？」

　私は首を横に振った。


　それでも、自分でペットボトルへ手を伸ばした。彼は、さっと手を伸ばしペットボトルの蓋をあけ私の手に持たせてくれた。


「主任。これに着替えて下さい」

　ベッドの横に、彼の物らしきグレーのトレーナーが置いてある。


「いいわよ。そろそろ帰るから」

　私は、やっとの思いで声を出した。


「もう終電は行ってしまいました。この時間じゃ、タクシーも捕まりませんよ」

　彼は、トレーナーを私の前に置いた。確かに、ミニスカートとストッキングは気持ち悪い。　でも、ここで着替えたら泊まってしまう事になる。


「大変なようなら、着替えさせてあげましょうか？」

　彼は、綺麗な目で私を睨んだ。

　全くの冗談にも思えない……



「いいわよ。着替えるわよ……」

　私は力無く言った。


　彼が、部屋から出でいくと、重い体を動かし、トレーナーに着替える。

　なんだか楽になりほっとしていまい、ベッドの上に倒れ込んだ。


　まだ、熱が下がっていない……