恋を忘れたバレンタイン
 プルルル…… 
 と二回ほどのコールでつながった。

『もしもし』
 朝早いのに、さわやかな声がスマホから聞こえる。

「浅島です。おはようございます。申し訳ありません。夕べから熱が下がらなくて……」

 最後まで言い終わらないうちに驚いた部長の声が返ってきた。


『ええ! 大丈夫か?』

「申し訳ありません」


『そんな事はいいよ。しっかり休んだほうがいい』


「ですが、午後、会議がありまして」


『浅島君の事だ、資料は出来ているんだろ?』

「はい」

『なら、担当者と一応僕も出るから心配するな。浅島君の代わりと言う訳にはいかんが、聞くだけ聞いとくから……』


「そんな、部長が出て下さるなら安心です。申し訳ありません」


『いいって気にするな。こんな時ぐらいしっかり休めよ。後は、山田君に対応してもらうから。お大事にな……』


「すみません。ありがとうございます」


 申し訳ないという思いに胸が痛むのは、休む事だけでは無い気がする。

 今の、この状態が悪い。部長に休みの連絡をしているのに、私はベッドの中で、しかも男が一緒に寝ている。この状況だけを見たら、嫌なドラマの男と女の朝の場面だ。
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