恋を忘れたバレンタイン
「ほらね。仕事はなんとかなりますから…… ちゃんと治しましょう」

彼は、私の不満なこの状態など全く気付いていないようで穏やかな口調だ。そして、スマホに手を伸ばした。


「ど、どこに電話するのよ! ちゃんと休みの電話いれたじゃない!」


「えっ? 俺の遅刻の電話ですよ。主任が代わりに部長に電話してくれますか?」


「な、何バカな事言ってるのよ。するわけないじゃない。だいたい何であなたまで、遅刻するのよ?」

「だって、一人じゃ病院は無理でしょ。しかも、八時からの受付だしね。どうやっても、遅刻だわなぁ」

 彼は、諦めたように唇を尖らし、スマホを操作し始めた。


「そうじゃなくて、一人で行けるし。家に帰るわよ」


 すると彼が、自分の唇に人差し指を、しっ―とあてた。慌てて、私は口を閉じだ。
 いや、なんでこうなる? 
 またもや、嫌なドラマの場面みたいになっている。


 電話が繋がって彼は遅刻の連絡をしているが、私は声を出す事が出来ず、彼の胸の中で、黙って聞いて居るしかなかった。


「それじゃ、俺は準備をしますから、主任はもう少し休んでいてください」

 彼は、するっとベッドから抜け出した。


 自分でも、夕べより彼に言葉を返す事が出来ているのだから、良くなってきているとは思うが、やはり体は重い。
< 25 / 114 >

この作品をシェア

pagetop