恋を忘れたバレンタイン
 しばらくすると、ガタンと玄関のドアの閉まる音がした? 
 何処にいったのだろうか? 
 そんな事を、ベッドの中で蹲りながら考えていた。


 十分程で、また、玄関のドアの音がした。そして、すぐに寝室のドアが開いた。


「コート着て下さい。今、順番取ってきましたから…… 保険証持ってますか?」


 保険証は、いつも財布に入っている。

 重い体を起すと、床に置いてあるブラウスに手を伸ばした。


「そのままで大丈夫ですよ。コート着ちゃえばわかりませんから」


「でも…… メークしないと……」

 立ち上がろうとすると、彼がマスクを目の前に出した。


「マスクしてしまえば大丈夫ですから。病院近いし大丈夫です」

 そうは言ってもある低度の身支度をと思い、ベッドから立ち上がると、ふらっとめまいがしてよろける。


「大丈夫ですか?」

 慌てて彼がかけより、体を支えた。けして、計算しているとかそんな事じゃない。本当に、立っているのがしんどい……


「ごめんね…… コート取ってくれる。このまま行くわ……」

 私は、差し出されたマスクを掛けた。
 彼がコートを肩に掛けてくれる。


「だから言ったでしょ…… 無理ですから……」

 呆れたように言うが、私を支える手からは優しさが伝わってくる。
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