恋を忘れたバレンタイン
「おばさん? 俺が一度でも主任の事をおばさん呼ばわりしましたか? まさか、女として意識されてないなんて思っている訳じゃないですよね……」

 頭の上から、彼の冷ややかな声が聞こえる。


「もう…… 私がいくつだと思っているのよ。おばさんよ…… とにかく今夜はソファーで寝かせてもらうわ」


 彼が、一歩近づいたのが息遣いで分かる。


「どうして、そんな必要があるんですか?」


「だから……」

 私は、イラっとして彼を睨むように見上げた。


「だって、主任から俺は本命チョコを貰ってます」


「あのね…… あれは、あなたの冗談でしょ?」


「冗談じゃない。主任は、いいわよって言いましたよね?」

 彼は、確認するかのように私を見下ろした。


「バカじゃないの? いい歳したおばさんが、本命チョコ? 笑わせないでよ…… 恋してチョコ渡すなんて、もうとっくに忘れてしまったわ」

 そう言い放って背をむけようとした時、彼が私の肩をぐっと掴んで壁に押し当てた。


 彼の顔が、目の前にある。


「忘れたなら思い出せばいい……」


 そう言った彼の目が熱くて、合わせた目を逸らせない。


 そのまま、見つめていた彼の唇が私の唇に重なった……
< 38 / 114 >

この作品をシェア

pagetop