恋を忘れたバレンタイン
 咄嗟の事に逃れようと彼の胸を両手で押すが、壁に挟まれたまま、彼の唇が益々強く押しあてられる。

 少し離れた唇は、今にも重なりそうなくらい近いままだ。


「やめて……」

 私は、やっとの事で言葉にし、彼を見上げる……


「いやだ……」

 唇を動かすだけで、触れてしまいそうな距離のまま彼は言うと、また、唇を重ねてきた。


 角度を変え何度も何度も、息をついた隙間に舌が入ってくる。

 舌を絡めるようなキスに、腰の力が抜けていき彼の手が支える。


 何やってんのよ。

 力が抜けてしまうようなキスなんて初めてだ…… 
 深く深く重なった唇がはなれた時には、もう、一人じゃ立てなかった。


「はぁ…… どうして、こんな……」


 私は、息を切らしながら、彼に訴えた。



「はぁ…… あなたが、魅力的だからに決まってます」

 彼も、息を切らしながら答える。


「そんな事を聞いてない……」


「あなたがいけなんです、ソファーで寝るなんて言うから。俺だって、我慢しようと思っていたのに……」


 彼は、切なそうな目で見つめて来る。

 その目に、体中がきゅうっと反応した。


「離して……」


 突然体が軽くなり、彼に抱きかかえられた事には直ぐに分からなかった。

 彼は、寝室のドアを開け、私の体をベッドに放り投げた。
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