恋を忘れたバレンタイン
 彼が、私の上に倒れ込み、お互いの荒い息だけが部屋の中に響いていた。


 今まで、こんなに乱れ、体も心もこんなに感じた事は無かった。

 そして、こんなに乱れた姿を誰かに見せた事など無い。


 息を整えながら、彼が、私を後ろから抱きしめる。


「ごめん……」

 何故、謝るの?

 ごめんの意味が分からない。


 まだ冷めない体を抱きしめられながら、不安が立ち込めてくる。


 胸の中で、何度も危険だと警報音が鳴ったのに……


 彼の手がスッと伸び、私の頭を優しく撫でる。

 優しく、優しくいたわるように……


 年下の男に、こんな風に触れられるなんて信じられない。

 でも、彼は私の髪に暖かい口付けをする。



 髪を撫でられながら、私は眠りに落ちていく。

 なぜ、眠ってしまえるのだろうか?

 病み上がりだから?
 激しい行為の後だから?
 それとも彼の胸の中だから?


 彼が、何か言った気がしたが、私の記憶には残らなかった……

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