恋を忘れたバレンタイン
「主任は、今度の新製品の開発チームには携わる予定なんですか?」

 彼が、私に話を振ってきた。

 いったい何を考えているんだ? 
 だいたい、同じテーブルに座るなんてバカなのかとしか思えない。


「ええ。まだ、詳しくは聞いてないけど……」

 私は、彼へと目を向けた。

 彼は、愛想のいい笑顔を向けていたが、絶対に目は睨んでいる。

 うあっ―
 笑顔が怖いって、こういう事を言うのだと思った。


 私は、今にも喉に詰まりそうなオムライスを水で流しこみ、早々に食事を終えた。

 それでも、余裕な態度をギリギリ保っている……


「お先に失礼しますね……」

 私は、席を立ちトレーを持ち上げた。

 これで、この場から離れられと心の中で息をついた時だ……

「主任、今度の開発チームのリーダー俺になったんです」


「凄いじゃない」

 思わず目を合わせてしまった。

 新し製品には社でも力を入れている。その、リーダーに抜擢されるのだから、彼もかなりの実績を上げているのだろ? 
 素直にリーダーになる事を喜ばしく思った。 


「でも、色々と分からない事ばかりで、主任、相談に乗っていただけませんか?」

 彼は、困ったような表情と共に軽く頭を下げた。


 部長の前で言えば、私が断れない事を分かっている。
 この人は、一体何を考えているんだ。


「そんな、私なんて相談に乗れるほどのものは無いわよ。部長の方が適格な判断して下さると思うわ」

 私は、部長の方を見てほほ笑んだ。


「ああ勿論、俺も協力させてもらうよ」


 部長は、快い返事をくれた。
 助かった。
 後は部長に投げてしまおう。
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