恋を忘れたバレンタイン
「大丈夫だから、もう、心配はいらないわ。タクシー代と病院代返さないとね」


「そんなものが欲しくて言っているんじゃない……」

 彼の声が、重々しく響く。


「それじゃあ、どうしたらいいのかしら?」


「はあ? あんたはどうなんだよ? 俺は、あんたが居なくなっていて、めっちゃ焦った。確かに、無理矢理だったかもしれない。でも、俺は、ずっとあなたを想っていた。やっと…… 俺を見てもらえるかと思ったのに…… やっと……」


 彼の言葉使いが変わった。


 この人は、何を言っているのだろうか? 
 本気で私を抱いたとでも言うのだろうか?


「……」

 私は黙ったまま彼を見ていた。


「俺は、本気だ。でなきゃ、いくら熱があったって、あなたを家になんて入れない。あなたの事で頭が一杯になったりしない。俺の気持は、受け入れてくれないのか?」


 彼のストレートな感情が痛すぎる。
 私がずっと避けている感情だ。

 受け入れてしまいたいと思う気持ちが無いと言ったら嘘になる。
 気持ちが完全に揺れている。

 でも、彼のこの感情はいつか薄れて行き、私の方だけが感情を残したら? きっと、彼は「重い」と言うだろう。

 しかも、三つの年下の彼に私の立場も感情も重くなる事は、考えなくても分かる事だ。

 だったら、今、終わりにしてしまった方がいい。
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