恋を忘れたバレンタイン
「主任、一緒に帰りましょう?」

 彼の手が、私の手に重なった。


「浦木君……」

「はい?」


「本当に、覚悟出来ているの? 私、素直じゃないし、かなり捻くれてるわよ」


「ええ、知っています。全部ね」

 彼は、そう言って私の手を繋いだまま、パソコンを閉じた。


「主任も、早く帰る支度して下さい」

 彼は、急いでコートを手にした。



「そんなに急がなくてもいいでしょ?」

 私は、ゆっくりと帰り支度へと向った。


「早くしないと、また主任の気が変わるかもしれないんで」


「失礼ね! 気分で言った訳じゃないわよ!」


「いいから、早くして下さい!」


 コートを着て、鞄を持とうとしたが、彼の方がはやく鞄を持ち上げた。


 手を引かれて、走るようにエレベーターに乗る。

 定時はとっくに過ぎているが、営業や海外事業部には、まだ人は残っている。

 手を繋いでるなんて見られたくない。
 幸いにも、誰にも会う事なく、ビルを出る事が出来た。
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