恋を忘れたバレンタイン
「タクシーで帰りましょう?」

 彼が、大通りへと向った。


「ええ! いいけど、お腹すいたわ」


「分かりました。今夜はコンビニで我慢して下さい」


「そんなの絶対嫌! せめて、デパ地下にして。ホワイト―デーなんだから?」


「はあ? いつからそんなイベントにこだわるようになったんですか?」

 彼が、呆れた顔で私を見た。
 こんな表情も結構好きだ。


「別にいいじゃない……」


「わかりましたよ、デパ地下行きましょう」

 彼は、駅の方へと向きを変えた。


 時間も遅く、あまり残っていないお惣菜を買う。
 ついでに、ワインとチーズも。
 私の気分は浮だってきた。


 彼が急いで、デパートを出ようとするが、私はそのまま上りのエスカレーターに乗った。


「どこ行くんですか?」

 イラっとした声の彼が、後ろから付いてくる。


 私が黙ったままたどり着いた先は、下着売り場。当然、彼の足は止まった。


「だって、今夜泊めてくれるんでしょ?」

 彼の方をチラリと見ると、彼の頬が赤く染まりそっぽを向いた。

 私は、ゆっくりと下着を選び、彼の元へ戻る。


「おまたせ」


「待たせすぎです」

 彼は苛々しながら、私の手を引っ張る。
 私の勝かな?


「あと、明日の着替えも買わないと……」


「いい加減にして下さい」


「えっ? 泊めてくれるのよね?」


 私は、そう言ってエスカレーターに乗った。


 デパートを出る頃には、両手に荷物を抱えていた。
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