恋を忘れたバレンタイン
 だが、部署の違う彼女と言葉を交わす事は無かった。
 でも、美人でやり手の彼女の噂は耳にする事が多い。イケメンやり手の男と付き合ってる噂に、なぜか肩の力ががっくりと落ちた。


 たまたま、その男が部署の中間と飲んでいる席に出くわした。

「なんで、浅島さんと別れたんだよ。あんな美人でも気に入らないのか?」


「いや、彼女は完璧だよ。だけど、男としてああいうタイプは重いんだよね。俺の方が下って感じがしてさ。やっぱり、可愛く頼ってくる方がいいじゃん」

 そんな、軽い会話が耳に入り、ムッとなった自分に驚く。
 重いってなんだよ? 
 小さい男だな! 
 そんな言葉を無言で男に投げかけた。



 間もなくして、その男が、アホっぽい女と結婚した。


 彼女は、どれほどのショックを受けているのだろうか? 
 どうにも気になり、無理に理由をつけ彼女の部署へと足を運んだ。
 だが、彼女はいつもと変わらず颯爽と仕事を熟していた。彼女の表情からは何も察する事が出来なかった。



 それからしばらくして俺は、彼女の部署へと移動になった。
 やっと願いがかなった。チームは違うが、遠目からでも彼女の姿を見られる事に胸が高鳴っていた。

 彼女の姿を見るようになって、思っていた印象は違う事を知った。美人で気高いのは思っていた通りだ。
 でも、厳しい反面、部下への想いは熱くて、上司へは一歩引いた謙虚さも持っている。

 会議では、周りが言えずにいる事をはっきりと言う姿勢はカッコいい。でも、ふっと見せる笑顔は愛らしくて、周りをほっとさせていた。

 キリッと凛々しいのに、時々ふっと机に頬杖をつく彼女は疲れているのだろう。俺は、そんな彼女に惹かれていった。

 それから、俺は彼女と同じ立場に立ちたくて、彼女に認められたくて必死で仕事に打ち込んだ。
 


 だから、この日の彼女の異変には、すぐに気付いた。
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