恋を忘れたバレンタイン
 俺は、布団の中に入り、彼女を抱きしめた。
 震える彼女を暖めるように。


「ちょ、ちょっと……」

 彼女は、抵抗しようとするが力が入らないのだろう。

 俺は、もっと強く彼女を抱きしめた。


 彼女の高い熱が、俺にも伝わってくる。
 本当なら必死で抵抗してくるだろうが、体を埋めたままの彼女が心配でたまらなくなる。
 俺は、祈るような気持ちで彼女を抱きしめていた。

 少しづづ治まりだした震えとともに、彼女は眠り落ちていった。
 その姿に、俺は心から安堵した。


 熱で抵抗できない彼女に、卑怯かもしれない。
 だけど、一度触れてしまった体は、もう離れる事が出来なくなるだろ…… 

 高熱の中、気丈に振る舞おうとしながらも、崩れていく彼女を愛おしく感じ始めていた。


 彼女の、髪を撫でながら、このまま俺のものになって欲しいと望まずにはいられなかった。

 そっと、額に触れた手が熱さを感じる。


 俺は、腕をのばしベッドサイドに置いてあった体温計を手にとった。
 首とトレーナーの隙間から、手を入れる。
 微かに彼女の肌に触れ、ドキッと心臓が跳ねる。

 彼女は、何も気づかず眠ったままだ。
 ピピッと電子音に、もう一度トレーナーの中に手を入れる。

 三十九度二分。流石に震えるわけだ。
 どうしようか? 

 取りあえず朝まで様子をみよう。
 もうすでに日付が変わっている時計を見た。

 一番面倒なバレンタインチョコを受け取った事に、ふっと笑みが漏れた。


 俺は、もう一度しっかりと彼女を抱き直し、眠りについた。
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