恋を忘れたバレンタイン
定時より少し前に、打ち合わせから戻った彼女を確認した。意外に早く終わったようだ。

俺は、人目に着かない一番奥のミーティングルームへ向かった。スマホを手にし、緊張にガラにもなく震える。
 二回ほどの呼び出しに、スマホから待ちわびた声が聞こえた。


「はい、浅島です」


「浦木です」


 スマホの向こうで、彼女や息を呑んだのが分かった。


「はい……」


「打ち合わせ終わりましたよね? 八ルームまでお願いします」


 俺は、簡潔に用件だけを伝える。ここで、ぐだぐだと長引かせても意味がない。

 部長も一緒で、仕事となれば彼女は必ず来る。そんな、彼女の真面目さを利用する自分を恥じない分けじゃない。だけど、今の俺にとっては、彼女と向き合う事が何よりも大切だった。

 彼女を呼び出しておきながら、何をどう話せばいいのか俺にも分からない……



 しばらくして、ドアがノックされた。


 彼女だ……



「ごめんなさい、お待たせして……」


 俺は、ゆっくりと振り向き、彼女の顔へ目を向けた。


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