恋を忘れたバレンタイン
「いいえ……」

 俺は、軽く首を振る。


「部長はまだ? デスクには居なかったけど……」


「部長は来ません。連絡していないので……」


 彼女には悪いが、今は、仕事の話をするつもりは無い。


「どうして?」

 聞き返す彼女の顔から、もう、すでに察している事が分かる。


「どうして? こっちが聞きたいですよ?」

 俺は、大きくため息を着くと、彼女に強い視線を向けた。



「あ…… 本当にゴメンなさい。お礼も言わずに…… もうすっかり良くなったわ。ありがとう……」

 彼女のほほ笑む顔が、まるで俺を他人だと言っているようで、胸が締め付けられるように痛い。



「そんな事を、言っているんじゃない事ぐらい分かりますよね? 誤魔化さないで下さい。どうして、黙って帰ったんですか?」


 俺は、きちんと彼女と向き合いたかった。
 嫌いだと言われても、最低だと罵声されても……
< 98 / 114 >

この作品をシェア

pagetop