海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
けれど俺が尋ねようと口を開くよりも前、エレンを振り返ったマーリンが言った。
つられて振り返れば、なるほどエレンが手持無沙汰にチラチラとこちらをうかがっているではないか!
「それから航路に関してですが、やはり航海長も船長の読みを重く見て、現在迂回路を検討しています」
「そうか」
「……俺の知識経験をもってしても、あなたという人だけはその本質が読み取れない。思慮深いのかただのあほうなのか、実に悩ましい。けれどひとつ、あなたが誰よりも海に通じていることは確かです。少なくとも俺も航海長も、この空模様から嵐の気配は読み取れませんでした。そうして腕が立ち、戦術に長けるのであればやはり、あなた以上に海軍提督に相応しい人はいないということなのでしょう」
最後にこう言い残し、マーリンはエレンの待つ船尾の方向に颯爽と足を向けた。
……な、なんだ!? 今のはもしかすると、褒められたのではないか!?
マーリンの背中を見つめながら、俺はむずがゆさに身悶えた。
けれどむずがゆさが治まると、俺はひとりスッと身を引きしめた。マーリンは世話係に徹しろと、周囲の目を意識しろとそう言った。