海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
暗がりの中では、時間の経過というのがまるでわからなかった。今がまだ夜なのか朝なのか、それすらも私には知る術がなかった。
そうしてどれくらい経っただろうか。やがて、音と揺れはやんだ。人が行き交う足音も、聞こえなくなった。
……海上戦が、収束したのか?
だけど私は、安易に衣装櫃を出ようとは思わなかった。約束通り、アーサーさんが衣装櫃を開けてくれるその瞬間を、じっと待った。
――カツン、カツン。
その時、扉の向こうで長靴の足音が止まった。
……誰、だ?
直観的に、足音が違うと思った。すでに、同じ船室に暮らして一カ月が経つ。アーサーさんの足音はもちろんのこと、そのぬくもりや息遣いまでがすっかり染みついてなじんでいた。
ゆっくりと扉が開かれ、足音が一歩、また一歩と近づく。段々と近くなる侵入者の気配に息をのみ、キュッと身を硬くした。