海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「……ほぅ。アーサーが己が自室に厳重に秘す金色の子猫。潜伏中の仲間から耳打ちされたのだがね、こうもまばゆい子猫とはいやはや予想外。君の正体は実に興味深い。もしかするとわしは、とんだ幸運を引きあててしまったかもしれないな。君は窮地へと追い込まれたわしの救世主となってくれるに違いない」
 極限の緊張状態で、侵入者の独り言ともつかない第一声を聞いた。
 それは、初めて聞く老齢の男の声だった。おっとりとした口調が印象的で、粗野な印象はまるでない。
 けれど穏やかなその声にも、私の緊張は増すばかりだった。口調は穏やかでも、男が語る内容は不穏の一言に尽きた。
「わぁっ!?」
 抵抗する間はなかった。
 突然、ワシッと腹周りを掴まれたと思った。次の瞬間には、私は勢いよく衣装櫃から引き出されていた。
 うつむいて、首を低くしていたことが災いした。引っ張り出される際に、不幸にもペンダントが衣装櫃の持ち手部分に引っかかる。そのままペンダントはスルリと首から外れ、音を立てて床に落ちた。
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