海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 ……あっ! 父ちゃんのペンダントがっ!
「……ヘレネ?」
 え? 老爺が口にした名前に、ドキリとした。
 聖人という意味を持つ、私のエレンという名は、母ちゃんにつけてもらった。同時にエレンというのは、母ちゃんのヘレネという名前の異形でもある。
 ……老爺はどうして、その名を呼ぶのか?
 落ちたペンダントから、私を掴み上げる老爺へと目線を移す。
 するとまず、目の前の老爺の美しい容貌が目を引いた。彫りの深い整った目鼻立ちも、空を映したブルーの瞳の輝きも、年月を重ねてなお、寸分も色褪せていない。
 積み上げてきた人生の分だけ刻まれた皺までもが、老爺にいっそうの深みを添える。
 文句なく老爺は美しかった。
 しかも老爺は、間違いなく剛腕だ。ガッシリとした筋肉に覆われた丸太のような腕は、突き出すようにして私を持ち上げたまま、わずかにだって揺らがない。
 ところがだ、正面に対峙する老爺はなぜか、掴み上げられた状態の私よりも、よほどに狼狽していた。
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