海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「待って!! ……ケホッ、ゴホッ、……アーサーさん駄目ぇーっ!」
 圧迫されていた気道は狭くなり、うまく声が出なかった。だけど必死で声を絞りだして叫んだ。
 ――シュッッ!
 ……心臓が止まってしまうんじゃないかと思った。それくらいアーサーさんの気迫はすさまじく、私はアーサーさんの本気を疑っていなかった。
 けれど刀身は私の予想に反し、爺さんの首の皮一枚だけを薄くかすめ、スゥッと一筋、朱色の線を走らせただけだった。
 私は一気に脱力し、その場にへなへなとくずおれた。
「エレン、無事か!?」
 アーサーさんは、うしろに続く部下に目配せし、すぐに私に駆け寄った。
「……アーサーさん」
 走り寄ったアーサーさんの腕が、宝物を抱き上げるみたいな丁寧さで、私を横抱きにする。衝撃冷めやらないまま、私は緩慢にアーサーさんを見上げた。
「怪我はないか!?」
 私は小さくうなずいてみせるのがやっとだった。
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