海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 アーサーさんは私の全身に目線を走らせて確認すると、きつく胸に抱きしめた。
「エレン、すまなかった! 約束を違え、怖い思いをさせてすまなかった! 海上戦を制し、まさにエレンを迎えに行こうというところだった。ところが全船員の捕縛が完了し、見張り兵に気の緩みが出た一瞬の隙を突かれた。奴の縄抜けを許し、エレンに恐ろしい思いをさせるに至ったのは、ひとえに指揮官としての俺の甘さだ」
 アーサーさんの全身から、真摯な思いが滲み出るようだと思った。アーサーさんの射抜くような瞳の強さに気圧されて、一瞬言葉に詰まった。
「や、やめてくれよ。アーサーさんの甘さだなんて、そんなことあるわけない。それに俺、どこも怪我なんてないし、そんなに怖い思いだってしちゃいないんだ」
 だけど、少しでもアーサーさんを安心させてやれるように、必死で言い募った。
「くわばらくわばら。一瞬、本気で首をかっ切られるかと思ったわ」
 のんきな爺さんの声が、緊迫した場にあって妙に響いた。
< 160 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop