海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 声の方に視線を巡らせれば、アーサーさんの配下の兵士らが爺さんを囲んでいた。段々と狭まる輪の中心で、爺さんは飄々と佇んでいた。
 そんな爺さんの姿に、異常事態にあって麻痺していた私の常識的な感性が刺激された。
「って、俺のこともさることながら、アーサーさんいったいなにやってんだよ!? なに丸腰の年寄りに物騒なモン振り下ろそうとしてんだよ!? 俺のこと、心配して助けようとしてくれたのはうれしいよ。だけど、爺さんへの非道な仕打ちは、人としてしちゃ駄目だろう!?」
 今でこそ私も、アーサーさんには、初めから本気で爺さんを害する意図はなかったのだろうと察する。
 だけど、それとこれとは別問題!
「脅しにしたって、丸腰の人間に刃物向けるなんてしちゃいけないと思うぞ!?」
「……さて、あの者が果たして本当に丸腰かどうか見物だな」
「え?」
 アーサーさんは不穏な笑みでつぶやくと、私を丁寧に床に下ろした。
「エレン、絶対にこの場から動くな」
 そのままアーサーさんは私の両肩に手を置いて、言い含めるように告げた。
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