海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「う、うん! わかったよ!」
 私は勢いに圧されるように、コクコクとうなずいて応えた。
「いい子だ」
 アーサーさんは目を細くして私を見つめ、トントンッと優しく肩を叩いてから手を離した。そうして兵士らに囲まれる爺さんに向き直った。
 その時に一瞬見えた横顔は、私の知る優しくて穏やかな表情とは別人みたいに、厳しく引きしまっていた。
 きっと、優しいばかりがアーサーさんを語る、すべてではない。私がたまたま目にしてこなかっただけで、アーサーさんは海軍提督としての厳しさや冷徹な一面も併せ持つのだろう。しいてはそれが、乗組員の命を守ることにも通じる。
 ……そっか、そうだよな。優しい微笑みだけでは、組織を率いるなんて、できるわけがない。
 理解はしても、目の当たりにしたギャップに戸惑いは隠しようがなく、内心の動揺は大きかった。
 けれど私の動揺とは関係なく、状況は刻一刻と変わる。アーサーさんは爺さんを鋭く睨みつけながら、一歩、また一歩と慎重に距離を詰めていく。
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