海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 船長室中が、緊張感でピンと張り詰めていた。
 私は約束通り一歩も動かず、爺さんとは対角の隅っこからふたりの様子をうかがっていた。
「若いの、老いぼれが相手だ。どうかこれ以上の無体を働いてくれるでないぞ」
 あと二歩分の距離にまでアーサーさんが迫ったところで、爺さんが腰を引かせながら、こんなことを言った。
 引け引けの腰で弱々しく言われてしまえば、どうしたって憐憫を誘われる。私は爺さんに同情して眉尻を下げた。けれどアーサーさんは、その表情をいっさい変えなかった。
 すると腰を低くした爺さんが、右手をさりげなくうしろに回す。
 えっ!?
 それは瞬きするくらいの、ほんの一瞬の間の出来事だった。
 一度グッと深く沈み込んだ爺さんが、反動をつけてアーサーさんに跳びかかる。それはとても老人とは思えない俊敏な動きで、同時に爺さんは、背中に回した右手をアーサーさんの首元目掛けて振り上げた。
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