海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
アーサーさんは大きくうしろに飛び退いて爺さんの攻撃をかわすと、攻撃を繰りだした直後でがら空きになった爺さんの脇に潜り込み、そのまま床に押し倒す。
爺さんは床に突っ伏して呻きを上げた。
アーサーさんは自重で身動きを封じながら、爺さんの右腕をねじり上げていた。その腕の先には……な、なんだあれ!?
光を受けてギラリと反射する鈍色に、心臓がギュッと掴み上げられたように感じた。
爺さんの右手の甲から伸びるのは、凶悪な形をした鉤爪の武器だった。
私だけじゃない、この場にいる全員が息をのんだ。
「アーサー提督! 失礼いたします!」
兵士のひとりが歩み寄り、爺さんの鉤爪の武器を取り上げようと手を伸ばす。
「待て! 素手で触れるな!」
その手が触れる直前、アーサーさんが鋭い制止の声を上げた。
「ただでさえ殺傷力の高い暗器に、致死性の毒を塗り込むとはえげつない」
なっ!? アーサーさんの続く言葉に、周囲がざわめく。
それは件の兵士でなく、爺さんに向けて語られた言葉だった。
「ハッ、若造めが。血気逸って素手で掴んでくれればいいものを、よくもまぁこの状況でわずかなにおいを嗅ぎつけおってからに」