海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
横で共に調書を覗いていたエレンは憤慨した。
「ってかさ、その国王って男の風上にも置けないぞ! 愛した女性の嘘八百を信じて、みすみす外国に行かせてしまうだなんて! 祖母ちゃんが、かわいそうだ……。母ちゃんだって、そのせいで母親を失った……」
祖母を思い、母を思うエレンの心は、至極真っ当なものだ。
「……エレン」
うつむくエレンの肩を、そっと抱きしめた。
けれど、陛下の人となりをよく知る俺は、エレンとは別の感想を持った。
陛下はきっと、身を挺してでも守り抜く覚悟だった。少なくとも陛下の心に、嘘はなかったはず。
とはいえ当時の陛下は十八歳で、周囲の思惑を完全に掌握しきるには若すぎる。
花売りの娘はすでに鬼籍に名を連ね、事の真相を聞くことは叶わない。けれど娘には誰がしかからの接触があり、それにより国を出る決断に至ったのではないだろうか。
少なくとも、乗船賃に足る程度の手切れ金を支払った何者かの存在があったことは確かだ。
「エレン、陛下がエレンのお祖母様を愛した心に嘘はないと俺は思うぞ」