海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 陛下の妃は、政略で娶った王妃様おひとり。側妃のひとりもつくらずに、陛下は王妃様を尊重している。
 実際、陛下と妃殿下からは深い信頼関係が見てとれる。けれど俺の目には、ふたりが愛し愛される夫婦とは少し違うもののように映る。
 陛下の愛は、今も花売りの娘に注がれている、そんな気がしていた。
「そうかな? うん、そうだといいな。……アーサーさんが言うと、そうだったのかもって思えるんだから不思議だ」
 エレンは俺を見上げ、クシャリと笑った。
 エレンの言葉が、否応なしに俺の胸を熱くする。
「そういえばマーリン、陛下はヘレネ様の存在を知っていたようだった。なぜ、陛下は知っていたのだろうか?」
 胸に燻る熱からわざと意識を逸らし、マーリンに問いかけた。
 するとマーリンのポーカーフェイスが、一瞬でゆがむ。
 ん?
「……かつてバーミンガー王国で潜伏中の宿に、緊急捜索が入ったそうです。逃走の際、慌てていたローシャル殿下は見返していたヘレネ様の養育日記を宿に忘れたらしく、それが陛下の手に渡ったようです。養育日記を忘れたショックで、ローシャル殿下は十キロ体重を落とされたとかなんとか……」
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