海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
アーサーさんが大きく一歩踏み出せば、ふたりの距離がゼロになる。見上げる私の鼻先が、長身のアーサーさんの胸をかすめる。
「ならばエレン、この部屋を出て行くのは俺だ」
「なっ!?」
私には、アーサーさんが言わんとしていることがまるっきりわからなかった。
口を開きかけたその時、ふわりとなじみのある香りを感じた。それはシーツから香った清涼感のある香りだった。
……これって、アーサーさんの香り!?
好きだと思った香りの正体に思い至り、カッと頰が熱くなった。
「俺は、今日はエレンと交代しよう、そう言った。そしてエレンは俺の提案を断らなかった。俺は、〝今日は〟と言ったんだ。ならば寝床も当然、今日というくくりに含まれる。な? 道理だろう?」
「それは……」
詭弁だ! けれどこうも正々堂々と言い放たれてしまうと、二の句に詰まった。
「俺はここを出て、大部屋に行くべきだな? だが、今さら寝具を抱えて移動するのも骨が折れる」
ここでチラリとアーサーさんが、物請いたげな視線をよこす。
「だからもしもエレンが嫌でなければ、俺が隣に寝るのを許してはくれないか?」
ギョッとして目をむいた。