海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
これには悔しいけれど、口をつぐむしかなかった。
ボンボンというほどではないけれど、両親は私に不足なくいろんなものを与えてくれた。
それに夢は、ここで少年の言う「身に迫った、さしたる理由」とは違うと思った。もちろん異国の珍しい品々を商売に生かしたい思いはある。けれどそれは後づけの理由だ。
私はこの目に、広い世界が見たい。それはきっと、見方を変えれば「我を押し通す傲慢」にもあてはまる。
事実、私は両親を泣かせてる……。
「フン! できることなら海の藻屑と沈めてやりたいくらいだ。とはいえ、今日の甲板掃除は俺とお前のふたりに割り振られてる。進行方向に向かって右半分はお前がやれ」
尻もちをついたままうつむいて黙り込んだ私に、上からあざけり交じりの言葉が浴びせられた。
「ま、待てよ!」
くるりと踵を返して行こうとする少年を呼び止めた。