海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
振り返った少年は、眉間にクッキリと皺を刻んでいた。
「ブラシ、どこにあるんだ?」
「ハッ! 新入りにやるブラシなんかあるわけないだろう? おっと、泣きつくなら早めに言ってこいよ。俺がもう半分も磨く。ただしその時、お前は海の藻屑だ」
ニヤリとした少年の、意地の悪い笑み。悔しさに唇を噛みしめた。
そんなのは、ただのいじめだ。だけどここは、教会の講義じゃない。いじめられたと泣いて訴えたって、いじめっ子を窘めて、優しく慰めてくれる神父はいない。
頼れるのは自分。周囲の目を変えたいのなら、自分で行動するしかない。
「……わかった。やればいいんだろ? 雑巾、よこせよ!?」
私はスックと立ち上がり、少年に向かってフンッと右手を差しだした。
「ハハッ! おもしろい! 精々がんばって磨くんだな!」
うわっ!?
投げつけられた雑巾を、顔で受ける寸前で掴んだ。私は脇目も振らず、雑巾で広い甲板を磨き始めた。