海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
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「うむ、こんなものだろう!」
俺は午前中いっぱい握っていたペンを置いた。そうして上々の仕上がりの文書を眺め、ひとり相好を崩した。
「……船長、あなたが朝も早くから机に噛りついて何事か真剣にやっている。やっと船長も心を入れ替えれくれたかと、一瞬歓喜に涙しそうになった俺があほうでした」
うん? 背後からブツブツと聞こえてくる呪文のような恐ろしげなつぶやきと、おどろおどろしい気配はいったい何事か……うむ、なにやら振り返りたくないな。
「ぅおっ!?」
振り返らずに無視を決め込んでいれば、俺の正面に突如、悪鬼のごとき表情のマーリンが現れた!
「無視とはいい根性じゃないですか、ねぇ船長?」
チッ。真正面に顔を突き合わせる方がよほどに恐ろしいではないか。こんなことならサッサと振り返り、適当に取り成しておくのであった。