海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「すまんすまん。寝不足のせいかなにやら少々、耳の調子が悪くてな。けっして無視がしたかったわけではないぞ?」
「え? これ……」
 机の前に回り込んだマーリンが、俺が午前中いっぱいかけて作った文書をツイッとつまみ上げる。
 人事異動通知書の文面にサッと目を通したマーリンが、俺に胡乱な目を向けた。
「エレンを船長付きの小姓に……ねぇ?」
 けれど俺も、負けじとここで表情を引きしめる。
「マーリン、エレンに他の乗組員と同列の生活を送らせるのは、現実的ではない。大部屋で雑魚寝などさせて、万が一があっては船の秩序が揺らぐ。これが船の安定運航を維持するためにも最善だろう」
 エレンはいっそ完璧すぎるほどに粗野な少年を演じきっており、胸元も断崖絶っぺ……いや、ささやかで、そうそう少女と気づかれるとは思えない。なによりあの短髪では、性別を疑う余地もない。
 それでも、少年にしたってエレンは美しすぎるのだ。
 乗組員を疑うわけではないが、血迷う輩とて現れないとも限らん。俺の小姓と定めれば、乗組員に対する抑止力になる。
< 60 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop