海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 上甲板にこうも人が集まるなど、珍しいこともあるものだ。これが素行のよろしくない船ならば、賭博や酒盛り宴会もいざ知らず、秩序あるこの船でいったい何事だろうか。
 これはもしや、ネズミでも湧いて出たのではあるまいな!?
 それは大変にまずい事態だ! 俺は思わず、ブルリと身を震わせた。
 残り二段の階段を跳び越え、俺は上甲板へと躍り出た。


 そうして上甲板に上がった俺の目に飛び込んだのは、目を疑うような光景だった。遠巻きに円を描くように、若手乗組員たちがザワザワとしながら見つめる先……!
「エレンっ!?」
 顔から首から、肌を真っ赤に火照らせたエレンが、甲板船尾にうずくまっていた。
「なにをやっているんだ!?」
 俺は駆け寄り、エレンの頭上に覆いかぶさるようにして影をつくる。近くで見下ろすエレンの肌は、痛々しい有様だった。
 エレンは手に雑巾を握り、必死で甲板を磨いていた。
「どいてよアーサーさん、これでやっと終わるんだ。邪魔、すんなよな」
 やっと終わる、だと!? 朝からずっと、照りつける太陽の下、潮風にさらされながら甲板を磨き続けていたというのか!?
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