海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
長袖シャツの上からエレンの腕を掴んだ。容易に俺の手が回りきる細く華奢な腕。
その先に続く、小さな手も真っ赤だった。甲だけじゃない、一日雑巾で磨き続けた手指に、手のひらまでもが真っ赤だった。
「なにを言っているんだ!? そんなものはかまわん! エレン、こっちに来るんだ! そのままでは皮膚が水ぶくれになってしまう!」
俺の腕を、エレンが振り払う。
「やめろよ! 俺は、かまうんだよ! 水ぶくれになったって、別に死にゃしない!」
エレンは俺に、キッと強い眼差しを向けた。
死にはしない? それは、そうかもしれない。
だけどそんなのは、俺が嫌だった。それは単に見てくれの美醜じゃない。俺はエレンが痛みに苦しむ姿など、見たくなかった。
「あ、……アーサーさん、ごめん。親切で言ってくれてるって、わかってんだ。だけどこれは、俺の仕事だから」
けれど続くエレンの言葉が、真っ直ぐに俺を見上げる真摯な瞳が、俺の二の句を奪う。ともすれば震えそうになる手を、固く握りしめた。
「……ならば、がんばって拭き終えろ。俺は甲板袖で待っている」