海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
――パタン。
今度こそ扉は閉まり、私は昨日に引き続き、船長室の寝台にポツンと取り残された。
……てか、船長命令ってなんだよ?
私はなんだか腑に落ちないまま、枕元に置かれた水袋に手を伸ばす。喉が、カラカラに渇いていた。
実は朝のあの一件の後、少年は一度、私のところに現れている。私の前に立ちはだかった少年は、ぶっきらぼうに林檎と水袋をひとつずつ投げてよこした。
怪訝に見上げる私に、少年は、『朝食と一日分の飲み水』とだけ伝え、すぐに背中を向けて行ってしまった。
首をかしげつつ周囲を見渡せば、乗組員たちが思い思いに同じ林檎をかじっていた。それを見て、林檎も水袋も少年の意地悪ではないことを知った。
私だって長期航海中の船で贅沢しようなんて思っちゃいない。けれど林檎一個の朝食は少々口寂しいと思ったし、なにより一日分と考えたとき、渡された水はとても少なかった。
水は、節約しながら飲んだつもりだったけど、日が一番高いところを通り過ぎる頃には、もう空になっていた。