海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
「それから俺は、お前じゃない。俺の名前はトレッドだ」
 トレッドと名乗ったこの少年は、今朝、雑巾を投げてよこしたアイツだ。
 トレッドは尊大な態度で言い放つ一方で、その表情はよくわからなかった。
 甲板で対峙した時みたいな、前面の悪意は感じない。かと言って、好意的とも言いがたい。
 要するにトレッドは、無表情だった。
「で、なにしに来たんだよ?」
「……そうだな。それが自分でもよくわからないんだ」
 へ!?
 わざわざ訪ねてきたはずのトレッドは、そう言ったきり口をつぐんでしまった。
「ふうん? ヘンな奴。普通ならここは謝りにきたとか、あるいは、甲板を全部拭ききった根性を見直したとか、言ってくるところじゃないのか?」
 沈黙が苦痛で、気づいた時には私からこんな軽口をきいていた。
「ヘンな奴ってその言葉、そっくりそのままお前に返すさ。普通はあんな理不尽な態度を取った相手が訪ねてきたら、警戒するんじゃないか?」
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