海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!
トレッドがここではないどこかを見つめ、ブツブツと口内でつぶやく。
「おい、なんだよトレッド? 何言ってるかわかんないぞ」
「……いや、違う! ……皆じゃない。たしか以前、王子殿下が訓練に参加した時はそうじゃなかった。王子殿下に直々に飯を運んだ。剣先が御髪をかすっただけなのに、目の色変えて王子殿下を抱えて医務室に走った」
うおっ!?
ブツブツと念仏のように唱えていたトレッドが、ギンッと目ん玉ひんむいて私を見た!
「だ、だからさっきからなんなんだよ!? 目じゃなくて、口で物を言えよ!」
「……陽光に透ける金髪に、空を映したような瞳。肌だって日焼けでゆで蛸になる前は、抜けるような白さだった。粗野を装う会心の演技に騙されず冷静に見れば、儚げで美麗な顔……あぁ、すべてが王家の持つ特徴そのもの! 現在王家に十人おわす王子殿下のどなたとは、一兵卒の俺には知る由もない。だけど船長が直々に手をかける存在はもう、間違いない!」
それなりの声量と勢いで言われたが、肝心の内容が支離滅裂。……これこそもう、間違いない!