海軍提督閣下は男装令嬢にメロメロです!

 最後に頭を床に擦りつけるように低頭し、トレッドは疾風のごとく消えた。
「……日焼けも水ぶくれもかわいいもんだ。トレッドの奴みたいに、脳みそが焼かれちまったら、終わりだなぁ……」
 ひとり残された船長室で、しみじみとつぶやく。

 ――コンッ、コンッ。
 ん? なんだぁ?
 トレッドが退出して、およそ五分後。再びのノックは、間違いなくそのリズムが同じ。
「はーい?」
 要するに、訪問者はトレッドだ。
「エレン様、失礼いたします」
 案の定、扉から顔を覗かせたのはトレッドだった。
「なんだよ? やっぱり冷やしてほしくなったのか?」
「いえ、お荷物を回収させていただきます」
「ハァ!?」
 ……ダメだ。やっぱりトレッドにはまともに話が通じない。
「いえ、今しがた副船長と行き会いまして、遅れて乗船したエレン様の所持品検査が未実施なので回収をと、指示を受けてまいりました。こういった船内では、違反物の持ち込みが一歩間違えれば大惨事を引き起こします。万が一にも火気や危険物があれば、事は乗組員全員の生命に関わりますので、検査は乗組員全員に義務づけられています」
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