愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
俺が話を切り上げて勉強を始めようとすると、太一は不服そうに大きく首を横に振った。

「そこは聞くところだろ!」

「聞いて欲しいなら最初からそう言えよ。で、何があった?」

しかたなくもう一度尋ねると、太一はまた口元をゆるめて身を乗り出した。

「昨日、ヒナと花火見たんだけどさ」

「あー……そう言えば昨日だったらしいな、花火大会」

予想通り、太一の浮かれている理由は彼女の話だった。

太一にはバレー部のひとつ後輩の彼女、石田 日菜子がいる。

今年の春に石田日菜子の方から告白されて、二人は付き合いだした。

バレー部で面識があったとはいえ、それまでは特別仲が良かったわけでも好きでもなかったはずなのに、付き合いだしてから太一は石田に夢中になっている。

付き合ってみて初めて、それまでは知らなかった石田の優しさや可愛さに気付き、あっという間に好きになったと太一は言っていた。

俺も吉野と付き合いだしたきっかけは太一と同じで相手からの告白だったけど、太一のように吉野のことを好きだとか可愛いなどと思ったことはないから、正直言うと俺は太一のことが不思議でしょうがない。

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