愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─

母親になれない女と母親代わりの家政婦

母は母性本能の欠片もない人だった。

大企業の経営者として多忙な父が仕事で留守がちなのをいいことに、家のことも子どもの世話も家政婦に任せっきりで、常に複数の男と恋愛していた。

俺は母に好きだとか大事だと言われたこともなければ、母親らしいことをしてもらったことが一度もない。

そんな俺を不憫に思ったのか、家政婦として昔から我が家に仕えていた道代さんは俺のことをとても可愛がり、よく面倒をみてくれた。

母親代わりのような人だったけど、どちらかと言うと年齢的にはおばあちゃんで、いつまで元気で働き続けられるかをいつも心配していたように思う。

母が家にいないことが当たり前だったせいか、幼い頃はそれを疑問に思うことはなかったけれど、成長してよその家庭では母親がどんな存在なのかを知ると、母に愛されていないことや必要とされていないことに気付き、それを寂しいと思い始めた。

だけど寂しいと思ったのはせいぜい小学生の間までで、中学生にもなると母が外で何をしているのかを理解していたから、女の本能のままに生きる母に対して嫌悪感を抱くようになった。

父は仕事で留守がちではあっても家に帰ってくれば良い父親で、早く帰れた日には一緒に食事をしながら学校や部活での出来事を俺に尋ね、それを楽しそうに聞いていた。

そんなときも母は何食わぬ顔をして笑っていたから、父は母の度重なる浮気に気付いていないのかと思っていたけれど、それは俺の勘違いだったようだ。

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