愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
「潤、もしかして……あの人が本命の彼女なのか?」

「……はぁっ?!おまえ何勘違いしてんだよ?あの人はそんなんじゃないから!」

娘の出産で休暇を取っている土田さんの代わりに来てくれている家政婦で、ついでに土田さんは早産だった娘さんの産後の体調があまり良くないから、休暇を9月末まで延長することになったらしいと説明すると、太一は気の抜けたコーラみたいな腑抜けた顔をした。

「なんだ、家政婦さんか……。それにしても若くて可愛い人だなぁ……。あんな人と二人きりになっても、潤は変な気起こしたりしないのか?」

「……バカなこと言ってんじゃないよ。そんなことあるわけないだろ?そろそろいい加減にしないと帰ってもらうぞ」

テキストを広げながら仏頂面で答えると、太一も慌てて問題集を広げた。

「わかったよ……。ちゃんと勉強するって……」

テキストの文字を目で追いながら、俺は太一の言った言葉を反芻していた。

英梨さんと二人きりになるなんていつものことだけど、そのたびに吉野と二人きりになったときとは違うと感じていたことは否めない。

吉野と二人でいても俺の心は常に凪の状態なのに、英梨さんと二人でいるときは心にさざ波が起こるような、そんな状態だった。

それが何を意味するのかは自分でもわからなかったけれど、そのときハッキリとわかったのは、少なくとも吉野より英梨さんの方が、俺の心を動かしているということだ。


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